違法盛土をドローンで監視する──空からの定期観測と3次元データが変える防災のあり方
山間部や森林の奥深く、人目につきにくい場所で行われる盛土工事。こうした場所では、新たな土砂の搬入や地形の改変が行われていても、その変化を早期に把握することは容易ではありません。
2021年7月に静岡県熱海市で発生した大規模な土石流災害を契機に、盛土の安全管理は全国的な課題となりました。2023年5月には「宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)」が施行され、危険な盛土等を土地の用途にかかわらず包括的に規制する仕組みが整備されました。
しかし、法律による規制だけでは、すべての盛土の状況を把握できるわけではありません。広範囲に点在する盛土をどのように発見し、その後の変化を継続的に確認していくのかが重要になります。
こうした課題に対して、ドローンによる空からの監視と、3次元データを活用した地形変化の把握が有効な手段として注目されています。
そもそも違法盛土とは?
盛土とは、土地を平らにしたり、高くしたりするために土砂を積み上げることです。宅地造成や道路工事など、さまざまな場面で行われており、盛土そのものが問題というわけではありません。
違法盛土とは、法律や条例で必要とされる許可・届出などの手続きを行わずに造成された盛土や、法令上の安全基準に違反して施工された盛土などを指します。
例えば、規制区域内で許可が必要な規模の盛土を無許可で行うことや、必要な排水設備・擁壁などを設けず、安全基準を満たさない工事を行うことが該当します。
こうした盛土では、雨水の浸透や地盤の不安定化などによって、大雨や地震をきっかけに土砂が崩壊し、周辺の住宅や道路などに被害を及ぼすおそれがあります。
一方、法律に違反していない盛土でも、状態によっては危険性が生じる場合があります。そのため、違法かどうかの確認だけでなく、盛土そのものの安全性を把握することも重要です。

なぜ違法盛土の発見は難しいのか?
違法盛土への対応を難しくしているのが、盛土が造成される場所と、継続的な監視の必要性です。
国土交通省の「不法・危険盛土等への対処方策ガイドライン」でも、人目につきにくい山間部や道路沿いなどで無許可の盛土等が行われ、発見が遅れる事例が指摘されています。
特に山間部や森林では、道路から土砂の堆積状況が見えなかったり、現地へ立ち入ることが難しかったりする場合があります。
また、盛土は一度に形成されるとは限りません。土砂の搬入が繰り返され、数週間から数か月の間に規模が拡大することも考えられます。
そのため、一度の現地調査だけではなく、定期的な巡回と過去の状況との比較が必要になります。
しかし、広い地域に点在する現場を職員が一つひとつ訪問し、継続的に確認することには、移動時間や人員の面で限界があります。
こうした背景から、現地に立ち入らずに状況を確認できるドローンの活用が期待されています。
違法盛土への対応は、今も続く課題
盛土規制法の施行によって規制の仕組みは整備されましたが、広範囲に点在する盛土を継続的に確認し、問題のある工事を早期に発見することは、依然として重要な課題です。
特に山間部や森林など、人目につきにくい場所では、土砂の搬入や地形の変化を把握するまでに時間がかかる場合があります。
こうした課題に対して、行政による現地パトロールに加え、ドローンや衛星による空からの確認や、過去の地形データとの比較など、複数の監視手段を組み合わせることが重要になっています。
参考記事: 読売新聞(2026年6月29日)
自治体でも進む、ドローンによる盛土監視
実際に、ドローンを盛土の監視業務に活用する自治体も出てきています。
香川県では2026年7月8日から10日にかけて、県内の盛土等を対象とする一斉パトロールを実施しました。
この取り組みでは、公用車による地上からの巡回に加え、ドローンを活用した上空からのパトロールを実施。盛土等の工事現場や土石の堆積場49件を点検し、必要な手続き等に関して2件の指導を行ったと公表しています。
ドローンの利点は、道路からは見えない場所や、人が容易に近づけない斜面などを上空から確認できることです。
また、撮影した写真や映像を記録として残すことで、現場の状況を関係部署と共有したり、後日の調査に活用したりすることもできます。
ただし、空から撮影するだけで、盛土が違法かどうかを判断できるわけではありません。
重要なのは、不審な地形の変化や土砂の堆積を早期に発見し、行政による確認や調査につなげることです。
撮影から計測へ。3次元データで盛土の変化を把握する
ドローンを活用した盛土監視では、写真や映像による目視確認に加えて、3次元データを活用する方法も考えられます。
ドローンで撮影した複数の写真を画像処理することで、オルソ画像や3次元点群データ、DSM(数値表層モデル)などを生成できます。
オルソ画像では、対象エリアの状況を地図のように俯瞰して確認でき、3次元データでは、盛土の高さや形状などを立体的に把握できます。
さらに、こうしたデータを異なる時期で比較すれば、以前は存在しなかった土砂の堆積や、盛土範囲の拡大などを確認することが可能です。
例えば、同じ場所を定期的に撮影し、地形データを蓄積しておけば、「いつ、どの場所で、どの程度の変化が生じたのか」を確認するための資料になります。
単に現場の写真を残すだけでなく、地形の変化を位置情報とともに記録し、比較できることが3次元データの大きな利点です。
ただし、写真測量では樹木の下にある地表面を十分に再現できないことがあります。また、異なる時期のデータを比較する際には、位置精度や計測条件をそろえる必要があります。
KUMIKIで見る、盛土の体積と地形の変化
こうした3次元データの活用を支えるのが、ドローンで取得した画像などを処理・管理・計測できるクラウド型プラットフォームです。
株式会社スカイマティクスが提供する「KUMIKI(くみき)」では、ドローンで撮影した画像からオルソ画像や3次元データを生成し、ブラウザ上で地形の確認や計測を行うことができます。
例えば、盛土が形成されている範囲を指定することで、その範囲の面積や体積を計測できます。
また、異なる時期に取得した地形データを比較することで、土砂の増減を定量的に確認することも可能です。
・盛土の体積計測
指定した範囲の体積を計測し、異なる時期の数値を比較した画面。土砂の堆積量の変化を説明する部分に配置します。
出典:KUMIKI公式コラム

KUMIKIには、2時期の地形データから盛土量・切土量を算出し、高さの変化を色分けして表示する機能もあります。
・ 2時期の体積比較
異なる撮影時期の体積をグラフで比較した画面。盛土の増減を数値で追跡できます。
出典:KUMIKI公式ヘルプ

これにより、土砂が増えた場所や地形が変化した範囲を視覚的に確認でき、計測結果をレポートとして出力することもできます。
・差分土量レポート
2時期の地形変化を赤・青で示し、盛土量・切土量をまとめたレポート。調査記録や関係者への情報共有を説明する部分に配置します。
出典:SkymatiXニュース

違法盛土の監視に応用する場合、こうした情報は、現地調査の必要性を判断したり、過去の状況と照合したりする際の参考資料として活用が考えられます。
なお、KUMIKIによる盛土の監視は想定される活用方法の一例であり、3次元データの計測結果だけで違法性や地盤の安全性を判断するものではありません。
衛星・ドローン・地上調査を組み合わせた監視へ
今後、盛土の監視では、ドローンだけでなく、衛星画像や航空レーザ測量、地上調査などを組み合わせた情報活用も重要になると考えられます。
例えば、衛星画像などから広い地域の変化が疑われる場所を絞り込み、ドローンで詳細な現況を確認する。そして、必要に応じて現地で地盤や排水設備などを調査する、といった使い分けです。
さらに、撮影したデータを許可・届出情報や過去の調査記録と結び付けることで、「どこに盛土があるのか」だけでなく、「過去から何が変わったのか」「どのような対応が必要なのか」を検討しやすくなります。
これは、複数の情報を位置情報によって統合し、現状の理解や意思決定につなげるGEOINT(地理空間インテリジェンス)の考え方にも通じます。
ドローンや衛星が取得するデータは、それだけで安全性や違法性を判定するものではありません。しかし、現地調査や行政情報と組み合わせることで、状況把握を支える重要な情報となります。
まとめ|盛土監視を「見回る」から「変化を捉える」へ
違法盛土への対応では、問題が大きくなってから対処するだけでなく、日常的な監視によって変化を早期に発見することが重要です。
ドローンは、地上から確認しにくい場所を上空から撮影できるだけでなく、3次元データを活用することで、盛土の範囲や体積、地形の変化を記録・比較する手段にもなります。
さらに、衛星画像や過去の調査記録、行政が保有する情報と組み合わせることで、より継続的な監視につなげることが期待されます。
「現場を見に行く」だけでなく、「現場がどのように変わったのかを捉える」。
こうした地理空間データの活用が、違法盛土の早期発見と、災害を未然に防ぐための判断を支える一つの手段となっていくでしょう。
